転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


102 そんなにするの!?



「さて、善は急げとも言うからのぉ。ルディーン君、早速我が別宅へ行こうではないか」

 ジャンプの転移場所が決まったところで、ロルフさんがいきなりこんな事を言い出したんだ。
 でも、今から行っても意味ないよね?

「なんで? ジャンプの転移場所に印をつけるのにはブラックボアくらい強い魔物が持ってる魔石がいるけど僕、そんな魔石を今は持ってないから今から行っても印、付けられないよ?」

 お父さんは家に帰れば2〜3個は転がってるだろなんて言ってたけど、今は持ってないんだから行っても何もできないんだよね。
 だから僕はそうロルフさんに言ったんだけど、

「ああ、その事なら問題はあるまい。わしは錬金術や魔道具作成が好きでのぉ、いつでも思い立った時に使えるようにと別宅にも幾つか置いてあるんじゃよ。じゃからそれを使えばよかろう」

 そしたらこんな答えが帰って来たんだ。

 それを聞いて驚いたのはお父さんだ。

「待ってください。ブラックボア級の魔石は確か一つで50万セント、金貨50枚はするはずですよね? そんな物を軽く使えばよかろうなんて……本当に大丈夫なんですか?」

 50万セント!? って事は元の世界のお金で500万円って事だよね?

 ブラックボアなんてそんなに珍しい魔物じゃないと思ってたから、この金額を聞いてびっくり。
 ところが、このお父さんの話を聞いたバーリマンさんは、もっとびっくりする事を言い出したんだ。

「あら、カールフェルトさん。それは冒険者ギルドに売る時の値段でしょ? もし買うなら小さな魔石でもその倍はいるし、ブラックボアと言えばCランク冒険者が狩るような魔物ですから良くて3倍、イーノックカウ近くの森ではかなり奥まで行かないとそのクラスの魔物はいないから大体4倍近い値段で取引されているはずですよ」

 50万セントの4倍って事は200万セント!? あれって、そんなにするの!?

 あまりの事に固まってしまう僕とお父さん。
 そんな僕らをよそに、ロルフさんとバーリマンさんは平然とこの話を続けるんだよね。

「これギルマスよ。脅かすでない。わしはCランク冒険者のパーティーと契約して狩ってきて貰っておる事を知っておるじゃろう」

「ええ、知ってますよ。でも、ギルドで買い取るよりは高い値段で買い取っているのでしょう? ならばやっぱり50万セントよりは高いじゃないですか」

 何か凄い金額の話が飛び交っているもんだから、僕はただ目を白黒させるだけだ。
 でもお父さんはいつもブラックボアより強い魔物を狩ってその魔石を売りに来ているからなのか、僕よりも早く立ち直ったんだ。

「なんと、店頭で買うとなるとそれほど多くの金を払わないといけないとは。通りで冒険者ギルドのギルマスがなるべく強い魔物の討伐を依頼できるようにと、昇級試験を受けさせたがるわけだ」

 イーノックカウの冒険者ギルドに行くといつも昇級試験の話を持ち出される理由に思い当たって、お父さんは難しい顔をしたんだ。

 でも4倍で売れるって聞いたら、依頼して狩ってきて欲しいって思う気持ち、解るよね。ギルドにはいっぱい人が働いてるんだし、その人たちのお給料を払うの、大変そうだもん。

「まぁ確かに金額は大きいが、ルディーン君がこのイーノックカウに定期的にきて貰える様になるメリットの方がそんな金額よりもはるかに大きいのじゃよ。それにルディーン君が一度村に帰り、そしてまたこのイーノックカウを訪れた時にわしの体が空いておるかどうか解らんからのぉ。この機を逃すべきではないと、わしは考えるのじゃ」

「そうですね。持ち込まれた二つのポーションの研究の事を考えるとルディーン君が定期的に来てくれると言うメリットは計り知れないですからね。その程度の出費でいいのなら、錬金術ギルドから出してもいいくらいですわ」

 そして僕がまだ話について行けないうちにロルフさんたちの結論が出てしまったんだ。

「それにジャンプの転移場所に印をつけると言う行為も、早くこの目で見てみたいからのぉ。次にルディーン君がこの街を訪れるとすればそれは一月先か二月先か。どちらにしても数日後と言うわけではないのじゃろう? そんなに長い間お預けを食らうのはたまらんから、ここはわしが所有している魔石を使って欲しいんじゃよ」

 その上こんなことをロルフさんが言い出したもんだから、お父さんも納得したんだ。

「なるほど。自分にとってとても興味があるものをすぐに見ることができる状況なのに、それを先延ばしにされるのがいやだと言う気持ちは解ります。それに先ほどギルドマスターが言っていたポーションの研究の為にルディーンにちょくちょく来て欲しいと言うのも納得できる話ですから、ここはお言葉に甘えてロルフさん所有の魔石を使わせてもらうのが良さそうですね」

 と言う訳で僕が何も言わないうちに、全ての話が纏まっちゃったんだ。

 でも今回の話は冒険者ギルドでの時と違って、ロルフさんとバーリマンさんがそうして欲しいかららしいし、僕としても転移を見られると困るから町の外につけた印は使っちゃダメって言われると、またお父さんに連れてきてもらえるまではジャンプの魔法を使う事ができないから、どうしてもいやだって訳じゃないんだよね。

「お父さん。何かよく解んない内に決まっちゃったみたいだけど、ロルフさんの魔石を使ってもいいの?」

「ああ。ロルフさんはどうやらルディーンが魔石を使って印をつける所が早く見たくてたまらないみたいだからな。確かに金額が大きくて少し悩む所だが、そう言う理由ならその方がいいだろう。無理に断って、折角の楽しみを台無しにしても悪いからな」

 そっか、ロルフさんが楽しみにしてるのなら早く見せてあげた方がいいもんね。

「そうよ。ロルフさんだけじゃなく、私もルディーン君がジャンプと言う転移魔法の印をつける所を見てみたいもの。それにつけてしまえばその場でも転移魔法を使える様になるんでしょ? なら、実際に跳んでくるところも見たいわ」

「おお、そうじゃ! わしも見てみたい。失われた魔法が復活したその姿をな」

 そしてバーリマンさんがジャンプで飛ぶところを見たいなんて言い出したもんだから、ロルフさんもわしもじゃ! って大興奮しだしたんだ。

 こうなったら断るなんてこと、できないよね。

 こうして僕は、ロルフさんが持っている魔石を使わせてもらって、イーノックカウ側の転移場所に印をつける事になったんだ。 


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